No.3 後藤 三夫氏(宮城県美術刀剣保存協会 副会長)

日本美術刀剣保存協会 刀剣鑑定中伝位・刀剣等指導員

生涯学習古文書一級インストラクター

時 : 平成29年10月13日(金)10時〜

場所 : 仙台市 後藤副会長 御邸宅

聞き手 同協会 赤荻亨 佐々木理恵

 

 

もくじ

0.後藤副会長の物語は楽しいんです!

1.日本刀に興味をもったきっかけは「一目惚れ」

2.もしかしたら刀匠になっていたかもしれない

3.日本刀を美術的な素晴らしさだけで終わらせるのは

勿体ない!

4.日本刀の歴史もぜひ…焦らず、肩の力を抜いて

楽しんでもらえたらいいな

5.僕にとって日本刀は「生きる原点」

 

 


 

0.後藤副会長の物語は楽しいんです!

ご自身が現在なさっている古文書の解読、調査から発見した歴史的な物語など、

機会がある度にお話くださる後藤副会長。(※註)

ご本人の楽しさも一緒に伝わってくるお話はまるで大河ドラマ、時代劇はたまた推理小説を読んでいるかのような

臨場感とワクワク感があります。

この度インタビューに伺った際も「今日は怖い話をしてみようかな…」と仰ってくださいまして、

取材の合間に様々な怖いけれど面白いお話を伺いました。

 

本インタビューでは、後藤副会長が日本刀に興味を持った経緯や、日本刀に触れる面白さをお送り致します。

後藤副会長の御刀への想いをどうぞご覧ください!

 

(※註)刀剣美術 第723号(平成29年四月号)にて

「近世地方都市の有力商家に残された刀剣資料 -『家蔵之刀剣相改帳』を中心として」が紹介されております。


1.日本刀に興味をもったきっかけは「一目惚れ」

後藤副会長 -

僕は中学生の頃から日本刀が好きで、学生時代は暇さえあればいつも刀のことばかり考えているような少年でしたね。

実際に使ってみることにも興味があって、竹藪を見て時にはやんちゃもしました。

高校生の頃は、同じく刀好きの仲の良い友達がいたので、学校の休み時間や放課後は

時間が許す限り刀の話をしていました。

 

ある日、別の友達が「うちにも刀があるよ」と言ってきたので、ぜひその刀を見てみたいと思って。

今思えばかなり遠かったのですが、当時僕が住んでいた福島市から伊達郡の桑折まで刀好きの友達と一緒に自転車で、

その友達の家へ向かいました。

友達の家に付くと蔵の中に刀があるということで、早速蔵の中へ案内してもらったんですが、

蔵の中で見せてもらったある一振りの刀に僕は強く魅せられてしまったんです。

 

その刀は茎に銘がなく、刀身は黒サビが付着している状態でしたが、峰の部分はしっかりとした印象のある刀でした。

鞘は煤で真っ黒だったのですが、煤を軽く払ってみると螺鈿が施された意匠になっていました。

それに加えて柄と鐔、目貫といった金物。金象嵌で「竹に雀」の模様…っていっても紋じゃないんだよ、

竹林で雀が遊んでいる様子が施されていて、実に素晴らしかった。

 

まさに一目惚れ。初恋。今も好き。

その時からぜひ日本刀という存在をもっと知りたい、もっと味わいたいなと思ったんです。


 

2.もしかしたら刀匠になっていたかもしれない

後藤副会長 -

中学生の頃から日本刀が好きだったものだから、日本刀に対しては並ならぬ想いがあるわけです。

高校受験の時に、進路で迷った時があったんだけれど、当時は宮入昭平刀匠が人間国宝になられた頃で、

日本中が「すごいすごい!」って喜んでいた時代だったの。

僕も日本刀が好きだし、もし志望校に入れなかったら、本気で弟子入りしようと思ってた。本当だよ。

 

そうしたら、同じ福島県内で僕と同じことを思った人がいたみたいで…僕より先に弟子入りしちゃったの。

おそらく「俺も日本刀を作る職人になろう!」っていう空気が当時はあったんだろうね。

 

僕は進学先が決まったので弟子入りはしなかったけれど、もし別の道があったとしたら、

並ならぬ想い一筋で、その人よりも先に僕も刀匠になっていたかもしれないね。

その後に宮城刀匠とお会いする機会があって、このことをお話したら面白がってくださいましたね。

 


 

 3.日本刀を美術的な素晴らしさだけで終わらせるのは勿体ない!

 

後藤副会長 -

日本刀って、刀本体や拵えひとつひとつに壮大な歴史や物語があるんですよ。

存在そのものがまさに文化的な財産なんです。

刀の姿や刃文、地鉄などから刀工名を特定するっていう、日本刀を鑑定する眼を養うことは、

日本刀の薫り高い美術的な素晴らしさを知るためにもね、もちろん大切なことだと思うんだけど、

基本的な刀の美しさを知るだけで終わるのは勿体ないなって思います。

 

日本刀や刀装具に施された意匠は、それらの持ち主や職人さんがただ綺麗に見せたくてやっているわけではないんですよ。

日本刀や刀装具ひとつひとつに実に様々な言い伝えや文学的な要素が含まれていて、人から人へ受け継がれた分だけの

物語があるんです。古典文学や歴史がぎゅっと詰まっているんです。

 

昔の人は本当に勉強に熱心で、日本や中国などの古典文学、自然の摂理にも詳しかった。

それらに精通していることが嗜みのひとつとして求められていたんですね。

意匠を作る側も、それらを愛でる側も、当たり前のようにそれらを理解していたからこそ、

ひとつの題材からいろんな意匠を生み出して表現できたし、意匠を見た人も表現に込められた意図をしっかり読み取って理解していたんですね。

当時の人の感性や教養は非常に高かったと思います。

 

そしてね、姿形の美しさや意匠の素晴らしさだけではないんです。

精神性はもちろんだけれど、経てきた時代や渡ってきた人たちの歴史を持っている。人間に人生があるように、

刀や刀装具それぞれが素晴らしい歴史を持っていて文化的価値があるんです。過去の歴史を現代の僕たちが垣間見れる…タイムカプセルのような存在なんです。

僕も含めて現代の人たちは、日本刀から過去の歴史をもう一度見つめ直して先人の知恵を学ぶことができるのではないかな。

 

 

僕の場合は美しさプラス、観ている刀にまつわる歴史、それが知りたくて、調べたりして楽しんでいるうちに

日本刀の勉強ができた感じがありますね。

日本刀から歴史を調べるのは、まるで物語を読んでいるみたいで本当に楽しいよ。

当時の社会情勢や経済、人間の心理までわかってしまう。

秘められた物語をひも解くのが楽しくて、どんどん掘り下げていくうちに古文書も読めるようになったら面白いなって思って

勉強して。解読するスキルも習得して、現在は古文書解読のインストラクターも務められるようになりました。

 

なんども言うけれど、美しさを知ることも大切だけれど、

それだけで終わらせるのは勿体ないと思うの。



 

 

4.日本刀の歴史もぜひ…焦らず、肩の力を抜いて楽しんでもらえたらいいな

 

後藤副会長 -

最近の宮刀保は若い世代も集まってきていて、熱心に学ぼうとする姿勢は非常に素晴らしいことだと思っています。

日本刀の美術的な観点だけでなくて、文化財としての観点でもぜひ学んでもらえたら嬉しいですね。

 

日本刀から歴史を学び始めると、どこまでも壮大な世界が広がっています。

終わりということがないんですね。

壮大な世界なだけあって気負ってしまいがちになるけれど、真面目になり過ぎたら

楽しいことも楽しくなくなっちゃう。

まずは気負わず肩の力を抜いて気楽に続けていってもらえたらいいですね。


5.僕にとって日本刀は「生きる原点」

 

後藤副会長 -

友達の家でみた刀に一目惚れして、そこから日本刀に秘められた歴史や物語を解き明かしてみたいという探求心が生まれて…日本刀や歴史が語りかけてくる何かを感じ取ることに夢中になって。振り返ってみれば、僕にとって日本刀はまさに生きる原点だね。

探求心のおかげで様々な分野の方と知り合うきっかけにもなっているから、人との繋がりという意味でも原点かな。

 

人との繋がりといえば、今度、何十年も会えずにいた友達が「今度、刀を見に行く」って僕の家に遊びに行くと言ってくれてるの。日本刀が好きな友達でね、中学生の頃からあーだこーだって日本刀の話をした仲なのよ。

彼も今までどんな日本刀を見てどう感じていたのかなぁとか…どんな話ができるか今から楽しみ。

日本刀が友達との縁を繋げてくれている感じがしますね。

日本刀がきっかけで僕の人生はより楽しく、より豊かになっているように思います。

 

美術品として、歴史を伝え続けてきた文化財、文化遺産として存在している日本刀を、

僕はこれからもずっと大切に守り続けていきたいなと思っています。

今まで日本刀が過ごしてきた千年の時代を垣間見る。それらをぜひ、次の百年に繋げていきたいですね。

日本刀を守り続ける心と歴史を伝承する心をもって、今後も親しんでいって欲しいなと思っています。

今後も楽しく勉強していきましょう。


お忙しいなか、長時間わたりご協力いただきまして誠にありがとうございました。

 

(文責 同協会 赤荻亨、佐々木理恵)