No.2 佐藤 一典氏(宮城県美術刀剣保存協会 副会長)

日本美術刀剣保存協会 刀剣鑑定奥伝位 取得者

 

時:平成29年7月28日(金)9時30分〜

場所:登米市  佐藤副会長  御邸宅

聞き手 同協会 赤荻亨 國上涼

 

聞き手 - 今回は佐藤副会長へホームページに掲載するインタビュー記事のお願いのため広報チームを代表して赤荻と國上が参りました。本日はどうぞよろしくお願い致します。

 



質問1:日本刀について勉強を始めるきっかけをお聞かせください。

 

佐藤副会長 -

私は日刀保協会発足当時からの会員であった父(中伝位)に強い影響を受けたことが、日本刀に興味を持つ大きな切っ掛けとなりました。

床の間に飾ってある日本刀、父が時々真剣な眼差しで見入っている刀や拵え、鐔等の刀装小道具類、

そうした環境の中で育ちましたので、子どもの頃から自然に刀について興味を持ち始めていたと思います。

そして父の意向で19歳で日刀保協会の本部会員にさせられてしまいました。

その直後にある出来事が切っ掛けとなり、何れは父に追いつき、そして追い越したいという強い願望を持つようになり、

本気で日本刀の勉強をし始めたのです。

 

 


質問2:日本刀の勉強方法と、その思い出話をお聞かせください。

 

佐藤副会長 -

私は昭和51年に父により日刀保の本部会員にさせられた際に、父から一冊の本を渡されました。

それは本阿彌光遜先生の著者『刀剣鑑定講話』という本でした。

 

まずはこの本を読んで刀の歴史や刀剣鑑定に関する基礎的な知識を学ぼうとしましたが、専門用語がよく理解できませんでしたので、

東京から帰省した際に父の大量の蔵書の中から刀剣書一冊を選んで「この本、東京に借りて行ってもいいかなあ」と聞きましたところ、

父はなんと「我が家の本は門外不出だ」と予想外の言葉を返されたのです。

私はその時「むっ」ときて、内心「会員にしたのはあんただろうが。息子が頼んでいるのに本一冊貸せないのか。

それならあんた以上に刀剣書を集め、あんた以上の目利きになってやるからな。」と心に決めて刀剣探究に没頭して行った訳です。

 

大学時代は東京近辺に住んでおりましたので、日刀保の本部のある刀剣博物館、数多くの国宝・重要文化財を保持している

東京国立博物館に度々足を運びましたし、神田の古本屋街には頻繁に出没して刀剣書をあさりました。

宮城県へ戻って就職してからは、日刀保宮城県支部に入会して故中川高支部長はじめ諸先輩からご指導を頂くと共に、

日本刀剣保存会の仙台支部長でありました好古庵故今野繁雄先生(本阿彌日洲先生奥伝允可)に願われて師事することとなり

謂わば「頼まれ弟子」になった訳です。

 

その後に今野繁雄先生の仲介により刀剣研磨重要文化財(人間国宝)保持者でありました故本阿彌日洲先生に刀剣鑑定の外弟子として

入門も許されましたので更に精進を重ね、日洲先生より初伝を允可されました。

その後「かたな」という新聞の発行を思い立ち、手書きの拙いものでしたが毎月作成しまして50号まで発行しました。

毎号記事をまとめるのにとても苦労をした記憶があります。その時の経験が日本刀に対する知見をより深めるために大きく役立ったと思います。

 

そのようなことが認められてか、日洲先生より「中伝を授けたいので更なる精進をするように」との書簡を頂きましたが、

その後間もなく日洲先生はご逝去されてしまいましたので、その時に頂いた書簡が「まぼろしのお墨付き」となってしまったという訳です。

しかし、それまでの精進の甲斐あって、日刀保本部からは初伝位、中伝位待遇、中伝位と允可され、

平成20年5月には奥伝位待遇試験に合格して父を越えることができましたし、さらに平成28年6月には新制度での奥伝位試験に合格し、

全国最初の奥伝位を允可して頂きました。

 

物事に取り組む際は、確固たる信念とハングリー精神による貪欲さが必要ですね。

今にして思えば父の「あの一言」あればこそ現在の私があると思いますし、私の人生を変えた一言と言っても過言ではないと思います。

ある時期までは父をライバル視して話もあまりしませんでしたが、今は大変感謝しております。

しかしその反面、いろんなものを犠牲にしてきたようにも思い、反省しきりです。

 


質問3 : 今まで見た御刀の中で特に印象に残っている御刀などございましたらお聞かせ下さい。

 

佐藤副会長 -

そうですね、私が今まで見た刀で一番印象に残っている刀は、 昭和51年に開催された日刀保協会の全国大会で見た来国俊の太刀ですね。

初めて参加した東京の全国大会(ホテルオオクラ)で数多くの名刀が並んでおりましたが、

その中で最初に手に取ったのが茎の平に銘のある国宝の来国俊の太刀でした。

 

姿、刃文、地鉄、どれをとっても最高峰の太刀であり、あの時来国俊の太刀を手に取った時の大きな衝撃と深い感動が

今でも私の記憶の中に鮮明に残っています。

本当に素晴らしい刀、名刀とはいつまでも目に焼き付いて心の中にはっきりと残るものなのだということを実感しました。

 

 現在は昔に比べて名刀を実際に手に取って鑑賞出来る機会がとても多くなっていると思います。

みなさんもいつまでも想い出に残る刀に出会えるようこれから鑑賞会はもちろん、博物館や美術館などにも

積極的に足を運ばれることを是非お勧め致します。

 

 

 


質問4 : これから日本刀を勉強する方への心構え、また鑑賞会で行われる

入札鑑定へ取り組むにあたってのアドバイスなどお聞かせ下さい。

 

佐藤副会長 -

初心者の方が鑑賞会などで最初から刀の特徴をしっかりと捉え、入札していくというのはとても難しいことだと思います。

まずは自分の頭の中に時代と国、そして刀工名を区分した引き出しをしっかりと作ることが事前準備として必要になるかと思います。

 

 私は初心の時期にその引き出しを自分の中で作るために、

父が日刀保協会本部会員として入会以来年ごとにファイルしてあります『刀剣美術』誌の紙上鑑定を活用しました。

『刀剣美術』誌のファイルを机上に置いて、毎号行われている紙上鑑定の問題に取り組み、

次号の答えとその翌号に掲載される解説文を読み合わせるような形でその引き出しを作る訓練をしました。

またその中でよく出てくる刀剣用語や代表的な姿、刃文、地鉄などの言葉の表現方法などを覚えるように心掛けました。

引き出しを作るやり方は色々な方法があるかと思いますが、初心者の方はそうした刀剣鑑定に必要な引き出しを作る準備を

しっかりと行った上で、入札鑑定に望まれるようにすると良いのではないかと思います。

地方の方は特にそうです。

 

入札鑑定のために必要な引き出しができるのには少し時間が掛かることだと思いますが、

引き出しを作る準備をしながら、日本刀が好きだという気持ちをより一層高めていくことが日本刀の勉強を続けていくための

最も大切な心構えなのではないかと思います。

それと同時に、理論から実刀鑑賞へ、実刀鑑賞から理論へと反復する過程で、イメージする能力と言うか想像する能力を培うことも

大切と思います。


 

質問5 : 宮刀保について思うこと、感じることまた今後必要であるものなどございましたらお聞かせ下さい。

 

佐藤副会長 -

宮刀保の活動に関してはみなさんも感じること、考えることなどたくさんおありかと思いますが、

その中でも私は会員同士の横のつながりが特に必要なのではないかと思います。

新しく入って来られた方達は刀について、役員やベテラン会員の方々に聞きたいことがたくさんあることと思います。

 

しかし年齢等での世代の違いや鑑賞会の持つ独特な雰囲気等もあってか、聞きたいことも中々聞けないというのが状況なのではないかと

思います。

そうした状況の中で、判断に迷う新しい方々に声を掛けにくいというのも上に立つ役員の正直な気持ちであります。

高山先生も鑑賞会の時に、「宮刀保は他の支部と違って、若い世代の方達が多く集まっている会です」とよくお話しされますが、

是非その特徴を活かしていきたく、役員も一層努力致しますが、あなた達も横のつながりが深まるような雰囲気作りを

心掛けていただければベストと思います。

 


質問6 : 副会長よりみなさんに伝えたいことなどありましたらお聞かせ下さい。

 

佐藤副会長 -

私は郷土刀に関する研究を長年続けておりますが、その中で感じることはまだまだ未登録の刀がたくさん眠っているということです。

一般の方は刀の発見、登録の手続きに対して、もしかするとあまり良い印象をお持ちでないのかもしれません。

 

そうした中で未登録の刀が中々日の目を見ず、登録するまで至らないという現実を私は非常に残念に思っております。

未登録の刀を一口でも多く世に出してあげたいというのが私の強い願望です。

 

みなさんも未登録の刀をお持ちの方がいらっしゃれば、是非怖がらずに警察に届けて欲しいという声掛けを積極的に行って頂きたいのです。

 また事前に警察署に発見届け出を行う際には、前触れもなく突然に行くのではなく、

担当課(生活安全課)に事前に刀剣類発見の電話連絡を行い、アポを取ってから行かれるとスムーズに事が運ぶと思います。


 

質問7 : 副会長にとって日本刀とはどんな存在でありますか。

 

佐藤副会長 -

日本刀は日本人の心、日本文化を代表するものという思いで

勉強してきましたが、色々な経験を重ねる中で、私は日本刀とは

「神格された神聖なるもの」であると考えるようになりました。

 

日本刀を探究することは「刀剣鑑定道」にはなり得ないと思います。

日本刀は、道の更に上を行くものだと私は思っています。

そうした日本刀という素晴らしい存在を次の世代へと伝え続けて行くことが日本刀を愛する私達の使命であると考えています。

 

これからの人生もその素晴らしい日本刀と共に過ごせるように

今後もみなさん一緒に勉強して参りましょう。

 



聞き手 -

 

はい。それではお時間になりましたのでインタビューの方はそろそろ終わりにしたいと思います。

日本刀を勉強していくための大切な心構え僕達もしっかりと肝に銘じたいと思います。

本日はお忙しい中長時間ご協力いただきまして大変ありがとうございました。

(文責 同協会 赤荻亨、國上涼)